毎年秋の恒例となっているOdoo Experienceが、今年も2026年9月24日から26日にかけて、ベルギー・ブリュッセルで開催されました。3日間で約4万5千人が参加する大規模なイベントとなりました。
今回のOdoo Experienceでは、Odooの新バージョン「Odoo 20.0」が発表されました。
この記事では、Odoo社CEOのFabien Pinckaersによる 1日目 と 2日目のキーノートスピーチをもとに、Odoo 20の主要な新機能や改善ポイント、料金改定について紹介します。
また、キーノートセッションでは取り上げられなかった日本ローカリゼーションについても、Odoo 20のリリースノートをもとに解説します。
今回のOdoo Experienceの様子については、参加したメンバーが詳しくレポートしています。OCA Daysへの参加も含め、現地で感じたOdooのコミュニティやエコシステムについて紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。
Odoo 20の主なトピック
Odoo 20では、AIをはじめとして、さまざまな機能が大きく進化しています。今回のキーノートスピーチで紹介された内容とリリースノートから、特に注目したいポイントを以下の5つに分けて紹介します。
- AI(人工知能)機能の進化
- 100の業種別ソリューション(インダストリー)
- その他の機能改善
- 料金改定
- 日本ローカリゼーション対応
AI(人工知能)機能の進化
Odoo 20で最も大きく進化したポイントの一つが、AI機能です。
これまでのAIが「Odooについて質問する」ためのものだとすれば、Odoo 20では、「Odooの仕事をAIに任せる」という方向へ進んでいます。
Odoo上のレコードを作成・更新したり、情報を分析したり、ファイルの内容を読み取ったり、他の自動化処理と組み合わせたりすることができます。
例えば、メールやファイルの情報からプロジェクトやタスクを作成したり、新しいWebページを自然言語で指示して作成するといった業務を、AIに任せることができます。
業務システムは、日々大量のデータを扱う一方で、入力や確認には人手がかかります。AIによってこうした作業を少しずつ減らしていくことで、担当者は単純な入力作業よりも、数字の確認や分析といった、より重要な業務に時間を使えるようになることが期待できます。
AIの実際の動作は動画のほうが分かりやすいため、該当する場面の動画リンクも掲載しています。ぜひご覧ください。
画像生成・編集
AIを使って、文章でイメージを伝えるだけで画像を生成したり、既存の画像を加工したりすることができます。
例えば、商品やサービスのイメージを文章で指示して画像を生成したり、背景のない商品画像に対して、指定した背景を追加したりすることができます。

その他のAI機能
- 音声による依頼ができます。
- AIエージェントを自動アクションやスケジュール処理によって呼び出せます。
- 自動化チャットの履歴を確認することで、エージェントがどのような処理を行ったか検証したり、発生したエラーに基づいた改善指示を出したりできます。
- エージェントとの会話は、最後のメッセージが送信されてから最大30日間保存されるようになりました。
- スキル(特定の文脈でAIエージェントの挙動を定義する指示文や一連のツール)が利用できます。

また、Odoo 20では、AI機能の利用にはクレジットが必要です。クレジットはIAP(アプリ内課金)によって購入できます。詳細はOdoo社のHPをご確認ください。
In-app purchases (IAP)(Odoo社HP)
さらに、MCP(Model Context Protocol)を介して、外部のAIエージェントからOdooのデータベースに接続できるようになりました。適切に設定することで、外部のAIエージェントからOdooのデータを参照したり、レコードを作成・更新したりすることができます。
これにより、Odooに組み込まれたAI機能だけでなく、外部のAIツールからOdooのデータを活用することも可能になります。
AI活用の基盤としてのERP
Odoo 20では、AIは単に質問に答えたり、情報を要約したりするだけでなく、レコードの作成・更新や情報の分析など、実際の業務を担う方向へと進化しています。
こうしたAIの活用を考えるうえで重要なのが、業務データの管理方法です。
販売、購買、在庫、製造、会計、顧客管理などのデータが複数のシステムに分散していると、AIが業務の状況を把握するためには、それぞれのシステムから必要な情報を集める必要があります。一方、ERPに業務データが集約されていれば、関連する情報を横断的に参照し、業務の背景や前後関係を踏まえて処理しやすくなります。
もちろん、データが集約されているだけでAIの判断が正確になるわけではありません。しかし、必要な情報に一貫性のある形でアクセスできることは、AIに任せられる業務の範囲を広げ、処理の精度を高めるための重要な基盤になります。
100の業種別ソリューション(インダストリー)
Odoo 20では、さまざまな業界向けの「インダストリー(業種別ソリューション)」が用意されています。
インダストリーとは、特定の業界(例えば製造業、小売業、建設業、サービス業など)でよく使われるアプリをあらかじめセットにして、業界特有の初期設定やワークフローをテンプレート化したものです。
例えば、建設業向けのインダストリーでは、販売、プロジェクト、購買、在庫、会計などのアプリを組み合わせ、見積から資材調達、現場作業、請求までの業務を管理できるように構成されています。
Odooのどのアプリをどのように組み合わせ、どのような設定で使うのかを一から検討するには、それなりの手間がかかります。インダストリーを利用することで、業界でよくある業務フローをベースに、Odooをより早く使い始めることができます。
Odoo 20では、このような業種別ソリューションを100種類以上提供しています。製造業や建設業、小売業などだけでなく、ホテル、飲食、会計事務所、不動産、各種サービス業など、非常に細かな業種にも対応しています。
2日目のキーノートセッションでは、インダストリー機能を活用して、実際に新しい事業を立ち上げていくデモンストレーションも行われました。
まず、テニスとスカッシュを組み合わせたラケットスポーツ「パデル」のクラブを開業。予約システムや会員管理、グッズ販売などをOdooで一元管理します。
さらに事業を拡大し、カフェやホテルまで開業。それぞれの業種に合わせたインダストリーを活用しながら、これらの事業もOdooでシステム化していく、という一連のプレゼンテーションでした。
このデモからも、Odooのインダストリーは単に「業種別の設定を用意する」というだけではなく、新しい事業を始める際に、その業界で必要となる業務システムを素早く立ち上げるための土台として活用できることが分かります。

その他の機能改善
Odoo 20では、AIや業種別ソリューション以外にも、各アプリで数多くの機能改善が行われています。
オフラインでのレコード操作
一時的にオフラインになっても、レコードの作成、編集、アーカイブ、アーカイブ解除、削除が行えます。

名刺画像からの案件作成
日本語の名刺からでも案件を作成することができます。

タイムシートの記録
トップメニューのタイマーを使って作業時間を計測し、どの画面からでもタイムシートに記録できます。

ActivityWatchアプリをデバイスにインストールすることで、デバイスの操作を自動で記録し、タイムシートに変換できます。

VoIP電話の着信フロー設計
内線番号、音声ガイダンス(IVRメニュー)、時間帯や拠点に応じた分岐処理など、ビジネス電話(PBX)の多彩な機能を取り入れた着信通話フローを直感的に設計できるようになりました。

再オーダ規則における推奨在庫数の自動提案
再オーダ規則における最小・最大在庫数が、過去の需要履歴、設定した最小カバー日数(在庫維持日数)、および購買頻度に基づいて自動提案されるようになりました。

作業オーダのスケジューリング
作業オーダのかんばんビューで、カードをドラッグ&ドロップして順番を入れ替えることで、作業の優先順位を設定できます。

このほかにも、Odooの各アプリで多数の改善が行われています。Odoo 20は「AIのバージョン」という印象が強い一方で、実際にはERPとしての日常的な使い勝手も着実に改善されています。
料金改定
Odoo 20では、機能だけでなく料金体系についても変更がありました。
Odooは2022年の料金体系変更以降、基本的にユーザー数に応じて料金が決まるシンプルな料金体系を採用してきました。今回の改定では、近年のインフレーションやAI、ホスティング、IT関連コストの上昇などを背景に、カスタムプランが20%値上げされました。一方、スタンダードプランの料金は据え置かれています。

また、新たに機能を限定した低価格のライセンス、「ライトユーザー(Light User)」が導入されました。ライトユーザーは、従業員がOdooのすべての機能を利用する必要はない場合に、必要な業務に限定してOdooを利用できるライセンスです。
例えば、人事関連では、自分の休暇申請、経費、勤怠、人事評価、紹介採用、計画などを利用できます。そのほか、フィールドサービス、在庫のバーコード操作、ナレッジの閲覧、POS、製造現場など、一部の業務機能も利用できます。一方で、「販売」「購買」「プロジェクト」「会計」といった主要な業務アプリについては、利用することはできません。

今回の料金改定で特に注意したいのが、これまで通常のユーザーアカウントを持たない従業員として登録していた人も、条件によってはライトユーザーとして料金の対象になることです。
そのため、Odooを直接操作するユーザーだけでなく、従業員の登録状況によっては、これまで想定していなかったライセンス費用が発生する可能性があります。導入済みの企業も、現在のユーザー構成や契約条件を確認しておくとよいでしょう。
特に従業員数の多い企業にとっては、今回の料金体系変更がシステム全体のコストに大きく影響する可能性があります。
今回の改定を単純に「値上げ」と捉えるかどうかは企業によって異なりますが、少なくとも、これまでOdooを利用していなかった従業員についてもライセンスコストを考慮する必要が出てきたため、企業によっては以前より導入コストが高くなる可能性があります。
一方で、ライトユーザーが利用できる機能を十分に活用しており、販売・購買・プロジェクト・会計などの業務ではOdooを利用していない従業員が多い企業では、従来の料金体系と比較して、かえってコストを抑えられる可能性もあります。
つまり、今回の料金改定による影響は、単純な値上げというよりも、企業ごとのOdooの利用方法やユーザー構成によって大きく異なると考えています。
日本ローカリゼーション対応
セッションでは各国のローカリゼーションについては取り上げられませんでしたが、Odoo 20のリリースノートから、日本のローカリゼーション対応について見ていきます。
貸借対照表および損益計算書
貸借対照表および損益計算書が、「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」に準拠しました。
勘定科目表の更新
主要な業務ケースをカバーするとともに、「中小会計要領」およびe-Taxのコード体系に準拠するよう、勘定科目表が更新されました。
税務申告書
一般課税・簡易課税の税務申告書に「消費税」セクションが追加されました。
売上積上げ計算、売上割戻し計算方式、個別方式など、消費税の計算方法の違いにも対応しています。
全銀対応
Odoo 19から、全銀フォーマットを利用した一括支払データの作成や、銀行取引明細のインポートにも対応しています。
詳しくは下記のフォーラム記事をご参照ください。
その他にも、法人税申告や税務処理の改善、手形・電子記録債権の管理、主要な会計ソフト・申告ソフトへのデータ出力など、日本固有の要望について、Odooの利用経験がある税理士の方から実務に即したご意見を伺いながら、Odoo社へ伝えています。
これらについては、Odoo社からも、機能の有用性や優先順位などを考慮しながら、対応を検討していくとの回答をいただいています。
日本ローカリゼーション対応は、これまで長らく後回しにされてきた面があります。しかし、近年の日本でのOdooの知名度向上や利用企業の増加を背景に、その状況は変わりつつあります。
今後も、日本のユーザーや専門家から寄せられる実務上の要望がOdoo社に伝えられ、機能の有用性や優先順位を踏まえて検討されていくことで、日本ローカリゼーションのさらなる改善が期待されます。
まとめ
Odoo 20では、AIエージェントによる業務の実行、100を超える業種向けソリューション、各アプリの機能改善など、幅広い進化が見られました。また、日本ローカリゼーションにも改善が加えられています。
今回のアップデートで特に注目したいのは、個々の機能が増えたことだけでなく、AIを活用しながら、さまざまな業務を一つのシステムで管理・実行していく方向性です。
ERPの刷新や、複数のSaaSの使い分けに課題を感じている企業にとって、Odooは検討する価値のある選択肢の一つです。新機能だけでなく、自社の業務との適合性、導入・運用コスト、将来の保守やアップグレードまで含めて評価することが重要です。



Odoo V20リリース - 新機能や改善ポイント