2026年9月24日〜26日にかけて、Odoo Experience 2026がベルギーのブリュッセルで開催されました。
3日目には、Odoo社CEOのFabien Pinckaers氏によるキーノートセッション「Master Class: Hyperscale & Company Culture」が行われました。
このセッションでは、Odoo社がどのように成長してきたのか、急速な組織拡大のなかでどのような経営方針や組織文化を大切にしているのか、そしてAIが社会やビジネスに与える影響について語られました。
昨年の同セッションと重なる内容も多いため、今回は2026年の講演で特に印象に残った点を中心に紹介します。
昨年の講演については、こちらの記事で紹介しています。Odoo社の経営方針を理解するうえでも参考になる内容ですので、まだ読んでいない方はぜひご覧ください。
Odoo Experience 2025 Keynote - Odooの急成長経営と組織文化
講演動画はこちらです。
Odoo社の急成長
Odoo社は、2002年にFabien Pinckaers氏が創業しました。
講演では、創業以来の社員数と売上の推移が紹介されました。
社員数:約7,500人(講演時点)

過去20年間の売上高の平均成長率:66%

会社が急成長を遂げるなかでも、Fabien氏は仕事時間の50%以上をプロダクトの研究開発に関する業務に費やしていると説明しています。
会社が大きくなると、経営者の仕事は資金調達や社外との交流などに偏りがちです。しかし、Fabien氏は仕事時間の95%を研究開発をはじめとする社内の業務やコミュニケーションに費やし、今でもプロダクトを経営の中心に据えています。
AIとの向き合い方
今回の講演では、AIについてOdooの新機能紹介とは異なる視点から語られました。
AIの可能性が注目されるなか、AIを活用すること自体が目的になってしまうことがあります。しかし、Fabien氏が強調していたのは、まず実際のビジネス上の課題から出発することです。
課題を解決するためにAIが適切な手段なのかどうかは、その後で判断すればよい、という考え方です。
AIの上に大きな建物は建てられない
講演では、AIを「砂地」にたとえる印象的な説明がありました。

AIは確率に基づいて動作するため、常に同じ入力に対して完全に同じ結果を返すとは限りません。結果が予測しにくく、再現性を確保することが難しい場合もあります。
このような性質を持つAIを土台として、その上に大規模で重要な仕組みを構築することにはリスクがあります。
砂地に建物を建てることはできないように、AIの上に大きな仕組みを築くこともできない。
AIの特性を理解し、どの部分に活用するのが適切なのかを見極める必要がある、という考え方です。
たとえば、Claude Codeのような開発ツールを活用して、AIを既存の開発プロセスに組み込むことはできます。一方で、AIの出力に全面的に依存して、ビジネスの基盤となる仕組みを構築することには慎重であるべきだと述べていました。
AIの技術やモデルが進化していくとしても、ビジネスソフトウェアとしての信頼性や安定性を確保することは欠かせません。ソフトウェアの基盤となる部分でも継続的にイノベーションを起こす必要があります。
OdooがAI時代に強みを持つ理由
講演では、OdooがAI時代に強みを持つ理由として、次の2点が挙げられていました。
- 業務データが統合されていること。 AIが販売や購買、在庫などの情報を横断的に利用し、業務全体を踏まえた支援を行いやすくなります。
- オープンソースであること。 ソースコードを参照できるため、AIを活用した開発やカスタマイズを進めやすくなります。
この2つを組み合わせることで、Odooは単にAI機能を追加するだけでなく、業務データを活用したAIの実現と、AIによる開発の効率化の両面で優位性を持ちます。

AIを導入する前に、IT環境を整理する
AIの活用を考えるうえでは、AIそのものの性能だけでなく、それを取り巻くIT環境も重要です。
多くの企業では、業務ごとに異なるITツールを導入した結果、システムが乱立し、データが分散してしまっています。こうした企業が、AIによって現状の複雑さを一気に解決したいと考えるのは自然なことです。
しかし、AIを導入するだけですべての問題が解決するわけではありません。
データが複数のシステムに分散し、業務プロセスも整理されていない状態では、AIが適切な情報を取得できず、期待した結果を得られない可能性があります。
まずはIT環境を整理し、業務プロセスとデータを整える。そのうえでAIを活用することが重要です。
AIを導入すること自体を目的にするのではなく、業務とデータの基盤を整えたうえで、AIをどのように活用すれば実際の業務改善につながるのかを考える。この順序が重要です。
AIは社会と仕事をどう変えるのか
講演の最後では、AIが社会や雇用に与える影響についても触れられました。
農業の機械化、産業革命、IT革命など、これまでも技術の進歩は人々の働き方を大きく変えてきました。AIもまた、仕事の進め方や、必要とされる能力を変えていく技術の一つです。
AIによって自動化される仕事がある一方で、新しい仕事や役割が生まれる可能性もあります。重要なのは、技術の変化を単純に雇用の減少として捉えるのではなく、仕事そのものがどのように変わっていくのかを考えることです。
この点について、Fabien氏はOdoo社自身の成長を例に挙げています。
AIをはじめとする技術の進歩は、人員削減だけでなく、サービスの質や提供範囲を向上させるためにも活用できます。
実際にOdoo社は、顧客からの需要が増え、サービスの利用が広がるなかで、チームを縮小するのではなく、むしろ拡大しています。
まとめ:AIがすべてを解決してくれるわけではない
2026年現在、AIは多くの企業にとって重要な経営課題の一つになっています。AIをどのように活用するかが、今後の競争力を左右すると考えている企業も少なくないでしょう。
今回のOdoo Experienceでは、OdooがAIを活用するための新機能や可能性を大きくアピールするのではないかと予想していました。しかし、実際の講演は、AIの可能性を強調するだけでなく、その限界や活用するうえでの前提条件にも目を向けた、意外なほど落ち着いた内容でした。
AIがすべてを解決してくれるわけではありません。新しい技術だからといって無条件に取り入れるのではなく、実際のビジネス課題から出発し、信頼できるソフトウェアの基盤を整えたうえで活用する。その姿勢が非常に印象的でした。
AIが急速に進化する現在だからこそ、目新しい技術を追いかけるだけでなく、何を解決したいのか、何を自社の強みとするのかを明確にすることが重要なのだと思います。
Odoo Experience 2026 Keynote - Odooの急成長経営と組織文化