高レイヤーOSSにプレイヤーを増やせるか

Engineer Cafeのイベントを機に考えたことなど
2024年4月25日 by
高レイヤーOSSにプレイヤーを増やせるか
Yoshi Tashiro (QRTL)

3月14日にEngineer Cafeで開催された「OSS Drink Up - OSSでの貢献と収入を得るリアル」というイベントにLT枠で参加しました。その前の週末にXでイベントの広告が流れてきて、OSSというテーマに惹かれるとともに、参加者があまり持っていない視点を提供できるかもしれないと思い参加を申し込んだのでした。



レイヤー(低/高)の観点


登壇資料はこちら:高レイヤーOSSの歩き方(2024年4月 ”OSS Drink Up” LT資料)


LTの趣旨は、

  • OSSには低レイヤーのもの(基盤に近いもの)と高レイヤーのもの(ビジネスに近いもの)がある
  • 低レイヤーと高レイヤーではフォーカスやマネタイズの仕方が異なること

といったことでした。

当然ながらここでいう高レイヤーOSSについての説明はOdooに関わってきた経験からのものです。OSSの文脈でOdooを語る際に、多くのエンジニアが持っている(ように思われる)OSSとの関わり方と、私たちのOdooとの関わり方の間に結構ギャップがあるように感じていたこともあり、今回のLTはそれを少し埋めるための自分なりの試みでもありました。



低レイヤーと高レイヤーの違い


「オープンソース」のERPソフトウェアとしてOdooを紹介すると、結構驚かれることがあります。「へぇー、ERPで?オープンソースなんですか!」と。


おそらく一般的にOSSと聞いてイメージするのは、Linuxカーネル、PostgreSQL、Nginx、OpenSSL、Git、Prettierなど、基盤なり特定の機能に特化したツールであることが多いと思います。これらは低レイヤーOSSといえ、フォーカスの対象は主に技術課題です。


一方Odooはあらゆるビジネス課題に対処するための業務アプリケーションスイートで、高レイヤーOSSに分類されます。ビジネス課題には、例えば「在庫の引当を顧客毎に行えるようにする」や「税計算の丸めを切り捨てにする」から「帳票の宛名に『様』をつける」のようなものまで様々なものがあります。OdooにおけるOSS活動の対象には技術課題も含まれますが、あくまでビジネス課題の解決が大きな目標としてあるため、「ビジネス的な価値を生むか」や「業務ロジックとして整合正が担保できるか」のような観点が重要になります。


低レイヤーと高レイヤーではマネタイズの仕方も変わってきます。前者ではOSSで提供される特定の機能に依存した仕組みで収益を上げている企業や業界団体が一部の優秀な技術者をスポンサーする構造であるのに対し、後者はOSS機能を直接的に利用する特定のユーザが我々のようなサービス事業者を介してコスト負担するのがほとんどではないかと思います。


少々乱暴な色分けをすると、前者は技術的に尖った優秀な人で且つ運が良くないと収入を得るのは難しく、後者は技術的にはそこまで優れていなくともドメイン知識がしっかりして妥当なビジネス解を出すことに長けた人であれば結構な再現性をもって収益を上げられるとも言えます。



高レイヤーOSSの可能性


今回のイベントの参加者は7割方20代~30代の人たちだったのではないかと思いますが、Odooのような高レイヤーOSSに興味があるか尋ねたところ、この層の皆さんはあまり興味がなさそうで、40代以上の年次が高めな層の皆さんには比較的ウケがよかったように思いました。イベントのテーマやOSS界隈での属性の分布からして低レイヤー側に興味を持つ方々が集まっていたということもありそうですが、高レイヤーOSSに取り組む私たちからするとずいぶんと偏っているようにも感じました。


社会人経験による差も出やすいのでしょう。当然ながらビジネス経験の浅い人がビジネス課題に取り組んで成果を出すのは容易ではありません。ですが技術トレンドのキャッチアップはやはり若い人の方が有利です。若者が低レイヤーの方に流れがちなのはある意味必然かもしれません。


一方少し年次が上の社会人経験を積んできたソフトウェアエンジニア層に目を向けると、ビジネスのことはわかっている、けれどもOSSのことは勘所がない、という人がほとんどではないでしょうか。正確なところは把握していませんが、20年ほど前を振り返るとOSS活動に取り組む人は私の周りにもほとんどいなかったように思います。


だからこそですが、高レイヤーOSSには大きな可能性があると感じますし、ここのセグメントに取り組む人たちはこれから出てくるのだと思います。今ビジネス経験の浅い技術者もいずれ経験を積みビジネス課題に取り組む立場に置かれることもあるでしょう。そういった人たちの一つの受け皿というか、一つの魅力的な活動場所として高レイヤーOSSがあるとよいと考えています。


今更ながら、OSS活動の根底には、課題に対して個別対応するのではなく、みんなでコストをシェアするという考え方があります。Odooのような優れたソフトウェアも、日本向けのローカリゼーションが十分できているわけではなく、コミュニティで連携して補完機能を作成したり、バグを潰したりするのが、全体を俯瞰すると効率的で価値があることは明らかです。それなのに参加者がなかなかでてこないという状況がある。このあたりは理由を含め「OSSコミュニティ活動のすすめ」の記事で説明しているとおりです。


ここへの打開策として、やはりマネタイズをどうにかするということがあるのだと思います。OSS活動への参加は多くのメリットがありますが、リターンが期待できないゲームにはプレイヤーが集まりません。コタエルはOSS活動を通じてコミュニティに価値を提供しつつ、それなりにリターンも得ていると考えますが、今よりももっとリターンの再現性が高まる方法論や仕組みを構築し、それをコミュニティと共有する必要があるのだろうと感じています。考えとして温めているものはあるのですが、それを徐々に形にしていければと思います。



イベントの感想など


メインスピーカーの鈴木さんの話はテンポもよく非常に面白かったです。意識高くありがちな目標を掲げてそこに進んでいくでもなく、紆余曲折ありながらも興味の赴くままに進んでいく中で成果を上げそれなりの場所に来ているという印象を受けました。こういう方が増えると社会ももっと面白くなりそう。他のLT登壇者の皆さまも熱意をもってOSSに取り組んでいる様子がうかがえ、活動のフィールドは違うとはいえ勝手に親近感を覚えました。


エンジニアカフェには実は初めて行ったのですが、ムラジュンさんが上手にファシリテートしてくださり、ハイボールを飲みながら楽しいひとときを過ごすことができました。ムラジュンさん、ありがとうございました!


課題の解決が好きな方

OSSを活用して企業のDXを本質的に進めたい方、
コタエルでやってみませんか?


高レイヤーOSSにプレイヤーを増やせるか
Yoshi Tashiro (QRTL) 2024年4月25日
このポストをシェア
アーカイブ